高遠弘美著『お風呂の歴史』(白水社刊)

fragie2006-02-15


 今日はきのうにつづいて春到来を感じさせるうららかな一日となった。
 

 仕事場のすぐ近くに、天然酵母のパン屋さんが出来たので、お昼はそこのパンを買う。
 小さなパン屋さんで、いかにもおいしそうなパンがささやかに並べられていて、もうすでに3人くらいのお客が並んでいるそのうしろにつく。お客さんのさばき方がまだシンマイで、若い女性ふたりがなんとなくぎこちなくパンを売っている。並べられているパンはどれも丁寧に焼かれた顔をしていて美味しそう。
 まあ、あたたかくなった春の日、時間がちょっとくらいかかっても、美味しいパンが手にはいるのだから待ちましょう。
 
 
 小社よりかつて『乳いろの花の庭から』というすぐれたエッセイ集を刊行されたフランス文学者の高遠弘美氏より、新しい著書『お風呂の歴史』(文庫クセジュ)をいただく。古代からの入浴の歴史をさまざまな逸話ととも紹介していくとあるが、その博識たるや凄まじいものがある。かつてその著書『乳いろの花の庭から』の序文で、中村真一郎をして「彼はわが近世大坂の宇宙的趣味人、木村兼葭堂
の子孫であり、今日の渋澤龍彦の兄弟である。それは世の常の自然愛好家、芸術愛好家の目から見れば、巨大なる逸脱者である」といわしめたように、その貪欲なる知と美への欲求は飽くことを知らない。内外の古典にこれほどエネルギッシュに自在にあそべる魂というものに、私はただ、ただ脱帽です。
 ちなみに高遠氏の著書ならびに訳書をちょっと紹介する。これを見ただけでも、氏の精力的な仕事ぶりが伺い知れるというもの。

 
 著書『プルースト研究』(駿河台出版社
 訳書 ロミ『突飛なるもの歴史』『悪食大全』(作品社)『乳房の神話学』(青土社
    ロミ&J・Cフェクサス『おなら大全』『でぶ大全』(作品社)
    J・Cフェクサス『うんち大全』(作品社)『珍説愚説辞典』(国書刊行会)などなど他にも多数。

 
 『乳いろの花の庭から』の序文は中村真一郎氏が亡くなる前に書いた最後の序文となったわけであるが、私は中村氏の慧眼をいまさらながら、驚くばかりである。
 
 
 余計なことであるが、高遠氏は大学時代の同級生であった。彼は将来を期待された優秀な生徒、わたしはといえばそれはもう、お粗末な劣等生であったことはいうまでもない。

                  (山岡喜美子・記)